川端康成学会 第48回大会 川端康成没後50周年記念国際シンポジウム

日時 8月19日(金)10:00より
場所 昭和女子大学 8号館西棟6階コスモスホール
特集: 川端文学の21 世紀―アダプテーションの地平―


*開催趣旨
 川端康成没後 50 周年記念大会として川端文学が 21 世紀の文学、文化に与える可能性を探る。多様な価値観や異文化を知る契機となる翻訳、映画化等のアダプテーションという行為は、しかしその過程において明らかにすべき様々な課題をはらんでいる。また前世紀に大きな犠牲をはらって築き上げた取り決めや枠組みは 21 世紀の今、新たな選択を迫られている。こうした厳しい現実の中で文化の果たせる役割は何か、そして川端文学はそこにどのように位置づけることができるのだろうか。
 この大会では川端文学研究に取り組む若い世代からの視点に光をあてながら、世界的な感染症の拡大によって逆に進展することになったオンライン会議の方式も利用して、これまで川端康成学会で招くことのできなかった海外の研究者たちとともに未来の川端文学研究への展望を開く。

*午前の部:新世代の〈川端康成〉 (10:00~12:00)
「戦中・戦後の川端現代語訳『とりかへばや物語』―変質する〈古典〉のプライオリティ―」
 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程国際日本専攻 熊澤真沙歩
「〈欲望〉を書く―変奏・循環・パターン」
 日本大学非常勤講師 青木言葉
「文学と演劇の交錯―戦後商業演劇における川端康成『雪国』の劇化について」
 早稲田大学坪内博士記念演劇博物館 赤井紀美
・ディスカッサント 志學館大学准教授 三浦卓

*午後の部:川端文学の21 世紀―アダプテーションの地平― (13:30~17:00)
・趣旨説明 静岡大学名誉教授 田村充正
「川端康成、その翻訳の限りない可能性 ―フランスの場合」
 パリ・シテ大学教授 セシル・坂井
「イタリアは川端康成文学を読む -ゴッフレード・パリーゼの『眠れる美女』への憧れ」
 ナポリ東洋大学教授 ジョルジョ・アミトラーノ
「川端康成と翻訳の時間」
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授 マイケル・エメリック
「川端短編から浮上する映画論」
 イエール大学教授 アーロン・ジェロー
「美しい日本と美しくない日本ーー川端康成と松本清張の点と線」
 早稲田大学教授 十重田裕一
「川端作品の翻案―エンターテインメント性を考える」
 昭和女子大学教授 福田淳子
司会 セシル・坂井
  福田淳子

*閉会の辞 川端康成学会会長 片山 倫太郎
 総合司会 川端康成学会事務局長 内田裕太


*新型コロナウイルス感染症の影響により、会場校での開催に加え、オンラインでも開催いたします。オンラインで参加される方は、各自で参加できる環境を整えておいてください。また、その際には下記のGoogleフォームのアドレス、もしくは添付されたPDFの大会案内に記載されている二次元コードより事前にお申し込みをお願いいたします。当日までにZOOM情報をお伝えします。

事前登録アドレス:https://forms.gle/MPu31UVCpNeCP2e89

*当日受付にて、参加費500円を頂きます。ご了承ください。
*当日受付にて、年会費の納入をお受けします。併せて、維持会費もよろしくお願いいたします。
*当日の理事会は開催いたしませんので、常任理事の皆さまはご承知おきください。
*例会での研究発表希望者を随時募集しております。ご希望の方は事務局長・内田裕太(kawabatagakkai@gmail.com)までご一報いただけましたら幸いです。
*本年度年会費をご入金いただいた方には、大会後から随時「年報」最新号をお送りいたします。また、会員の皆様には「年報」35号(2020年)までのバックナンバーを送料込み1部500円で販売致します。最新号と前号は会員価格2,000円で販売致します。なお、在庫切れの号もありますので、詳細は事務局長・内田裕太(kawabatagakkai@gmail.com)まで、お問い合わせ下さい。
*例会についてのお問い合わせは下記にお願いいたします。
川端康成学会事務局
〒230-8501 横浜市鶴見区鶴見2-1-3 鶴見大学6号館 鶴見大学文学部片山倫太郎研究室
メール:kawabatagakkai@gmail.com


【発表要旨】
*熊澤真沙歩「戦中・戦後の川端現代語訳『とりかへばや物語』―変質する〈古典〉のプライオリティ―」(東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程国際日本専攻)
 平安時代後期に成立した『とりかへばや物語』の主人公は、男装する女子/女装する男子である。身分の高い貴族の子として生まれた男女が、生物学的な性別と物心ついた性格との不一致からトランスジェンダーとして異性装という秘密を抱えながら平安貴族社会で奮闘する。この斬新な物語の設定が、約千年前に発案されたのだから驚きである。『とりかへばや物語』は成立過程に不明な点が多く作者が男性か女性かも不確定だが、作者の性別は大きな問題ではない。むしろ時代に合わせて更新されつつ読み継がれた経過こそ重要である。明治時代に活字本が出たあと、川端康成(1937年/1948年)、永井龍男(1958年)、中村真一郎(1960年)、田辺聖子(2009年)らの作家による現代語訳のほか、1980年から2010年以降までライトノベル、漫画、演劇など様々な媒体でアダプテーションされている。本発表では第二次世界大戦をまたぐ1937年と1948年の二回に川端名義で発表された現代語訳『とりかへばや物語』に注目し、時代状況で変質する〈古典〉のプライオリティを、軍国主義の異性愛中心主義と大衆文化のクィア・スタディーズの観点から論じる。

*青木言葉「〈欲望〉を書く―変奏・循環・パターン」(日本大学非常勤講師)
 川端康成の作品において様々な様態として現れる〈幻想〉がある。〈幻想〉に対して、構造化――神秘性や美感の志向の発見ではなく一貫した論理の解明――は可能なのか。それによって明らかになることは何か。
 〈幻想〉は作中人物という個人が胸に抱くものである以上、そこには意識的/無意識的の心情の反映がある。意識的であれば構造化は比較的容易だが、無意識的なものである場合、それは作者の〈意識的な〉意図であろうとそうでないとに関わらず、一見不可解にも見える〈幻想〉はその言語の使用の反復・変奏・連鎖・呼応を通して読み解かれ、構造化されるべきである。川端の小説作品においては、語そのものがしばしばメタファである以上に、語の連鎖や、一見つながりを持たず、またそれ自体では意味をなさないような小エピソードが、変奏によって一連のメトニミーとしての意味を形成することがかなり特徴的であるように思われる。
 本発表においては「水晶幻想」(昭和六・一、同六・七『改造』)等を例に、非論理的イメージの氾濫ともみえる川端文学の緻密な論理的明晰さの構築の在り方を紹介したい。

*赤井紀美「文学と演劇の交錯―戦後商業演劇における川端康成『雪国』の劇化について」(早稲田大学坪内博士記念演劇博物館)
 文学と演劇は文字に書かれた媒体と身体によるパフォーマンスという大きな差はあるが、文字に書かれた物語が演劇として摂取され上演され、また上演された舞台が文字テクストとして残ったり、劇化を契機として物語が他ジャンルへと広がったりした。文学と演劇という領域の重なりの歴史は古く、そして幅広い。
 本発表では文学と演劇の交錯、なかでも近代における文学作品の劇化について、商業演劇を中心にその概要と特徴を示すとともに、川端康成『雪国』の戦後における劇化について論じる。戦前に一度劇化された本作は、戦後川口松太郎、菊田一夫、北條誠、宮本研といった劇作家によって脚色され、大劇場において上演された。戦後の商業演劇において『雪国』がいかにコンテンツ化されたのか、各種資料をもとに明らかにしたいと考える。

*セシル・坂井「川端康成、その翻訳の限りない可能性 ―フランスの場合」(パリ・シテ大学教授)
 フランスにおける川端文学の翻訳史を紹介してから、その背景にある出版状況、日本文化の受容の変遷、さらに翻訳というプロセスの含む越境力の展開などを追ってみる。
 ノーベル賞前後の動きに注目し、1960年代―70年代の翻訳の基準が目標言語、つまりフランス語の受容を重視していたことによって、外国文学の導入という使命のもと、大幅なオーヴァートランスレーションが続いた。そのような傾向は当時の英語訳、ドイツ語訳にも見られ、一部の日本の専門家の翻訳詮議を呼び起こした。翻訳は本文の純粋な意味を捉えることができないといった、否定的な論が多い中、アダプテーションという新しい観点から今考え直すと、それらの翻訳は、それなりに有効であったと言わざるをえない。
 ベンヤミンの提唱した、翻訳の蓄積の結晶としての世界文学論は、二十一世紀の現在の翻訳理論では、翻訳テキスト自体の正当化に繋がっている。その枠組みで、川端康成自身の言説、翻訳論や文章論、特に余白、つまり受容者の解釈を必要とするモダニズム芸術の特徴を再検討する必要がある。解釈を基盤としたアダプテーションは生物学に見るように、目まぐるしく変化する現在の文化的地平に順応すべく、作品世界の存続を保証する、カノン化への条件でもある。

*ジョルジョ・アミトラーノ「イタリアは川端康成文学を読む -ゴッフレード・パリーゼの『眠れる美女』への憧れ」(ナポリ東洋大学教授)
 20世紀後半まで、イタリアにおける日本文学の知識は、ごく少数の専門家や風変わりな趣味を持つインテリに限られていた。イタリア出版業界が日本人作家に関心を示し始めたのは1950年代後半から60年代前半であり、特に川端康成、谷崎潤一郎、三島由紀夫からなる三人組に注目が集まった。その後およそ20年の間に、日本文学の中でもこれらの作家の作品が最も翻訳され、尚且つ最も読まれることとなり、結果、イタリアにおいて初めて日本文学がその確固たる地位を築き、世界の偉大な文学の一つとして仲間入りを果たしたのである。
 本発表では、そういった文脈から始まり、当然ながら川端のケースに焦点を当て、イタリアの読者に初めて紹介された英語からの重訳である『雪国』、その後、強烈な印象を与えた須賀敦子編『日本現代文学集』の「ほくろの手紙」。ノーベル文学賞受賞の影響を受けての、さらなる発展段階から、『掌の小説』までの経緯。また、イタリアの作家ゴッフレード・パリーゼが川端に捧げたエッセイと、彼の『眠れる美女』への憧れにも言及する。彼のこの作品への愛は、ガブリエル・ガルシア・マルケスやマリオ・バルガス・リョサなど、他の西洋の作家とも分かちあわれている。何故この作品がさまざまな国の偉大な作家を魅了したのか。なぜ出版から60年以上の年月を経た今でも、現世代を生きる人々へのその小説の包含する意味と不思議な美しさの伝達が続いているのか。本発表で、こういう疑問に答えてみたい。


*マイケル・エメリック「川端康成と翻訳の時間」(カリフォルニア大学ロサンゼルス校教授)
 今回のシンポジウムのテーマは「川端文学の 21 世紀―アダプテーションの地平―」であるが、本発表では、むしろ20世紀末を起点に21世紀を考えたい。今からちょうど25年前に当たる1997年の秋に私は『富士の初雪』という作品集の英訳に取りかかり、そしてまた2022年の現在、川端文学の後期の短編を英訳している最中である。翻訳という行為を通して、四半世紀も川端という一人の作家とずっと付き合うことで、何が見えてきたのか。また、さらに長期的に考え、第二次世界大戦後、クノップフ社が実験的に開始した現代日本文学の英訳プログラムに早い段階から取り入れられた作家の一人であった川端康成が、ほぼ70年もの間、英訳されつづけてきたことにどういった意味があるのか。以上のふたつの視点から、川端文学を一つの好例として、本発表では翻訳と時間をめぐる論を展開する。


*アーロン・ジェロー「川端短編から浮上する映画論」(イエール大学教授)
 川端康成と映画の関係を考えるにあたり、その文体がいかに「映画的」であったかを論じる以前に、まず「映画的」とはいかなることなのか、加えて川端にとって映画とは何だったのか、を彼の書物を参考にしながら考える必要があるのではないだろうか。今回の発表では、映画に関連するいくつかの川端の初期の短編小説から、そこに内在する「映画論」を抽出し、川端による「映画的」の定義の顕在化を試みる。


*十重田裕一「美しい日本と美しくない日本ーー川端康成と松本清張の点と線」(早稲田大学教授)
 川端康成と松本清張。生前、必ずしも親交があったわけではない二人の作家は共に、自作が映画化されるケースが多かった。加えて、テレビ・ドラマ化にも少なからぬ貢献をした点で共通点を持つ。敗戦後、「美しい日本」を書こうとした作家と、高度経済成長からバブル経済崩壊に至るまで「美しくない」日本をも書き続けた作家を結ぶ点と線をたどることで、昭和時代後期の日本文学におけるアダプテーションの特色の一端を明らかにしたい。

*福田淳子「川端作品の翻案―エンターテインメント性を考える」(昭和女子大学教授)
 川端作品の翻案は、映画・テレビドラマ・テレビアニメなどの映像作品、ラジオドラマなどの音声作品、演劇・オペラなどの舞台作品など、昭和初期から現在に至るまで多岐にわたって行われている。これらの行為は、文学の副次的な現象と捉えられ、文学の本質を語る上ではあまり重視されてこなかった。しかし、メディアが多様化し、活字離れとともにメディアミックスが進む昨今において、川端作品がどのように他のメディアに翻案され、どのように社会に取り込まれてきたのかを捉え直すことは、川端文学の特質を探ること、ひいては文学の意義や役割を考えることに繋がるはずである。受容者を視野に、川端作品の翻案におけるエンターテインメント性について考えていく。

【会 場】昭和女子大学8号館西棟6階コスモスホール(〒154-8533 世田谷区太子堂 1-7-57)
【アクセス】 *地下鉄:東急田園都市線(半蔵門線直通)「三軒茶屋」駅下車徒歩 7 分
*バス:●渋谷駅から下記方面行きを利用し、「昭和女子大」下車(上町・等々力・田園調布・弦巻営業所・二子玉川・高津営業所・成城学園・祖師谷大蔵・狛江・調布)

●目黒駅・祐天寺駅から三軒茶屋行きを利用し、「三軒茶屋」下車

●下北沢駅から駒沢陸橋行きを利用し、「三軒茶屋」下車

http://kawabatayasunari-academy.org/wp/wp-content/uploads/2022/08/川端康成学会第48回大会フライヤー.pdf

http://kawabatayasunari-academy.org/wp/wp-content/uploads/2022/08/川端康成学会-第48回大会-.pdf

事務局