会長挨拶

川端康成学会 会長 片山倫太郎

川端康成学会(旧称川端文学研究会)は、発足から2020(令和2)年で50年となりました。先人の遺業に感謝しますとともに、あらためてこの歴史と伝統を継承し発展させていく責任を痛感します。

学会の核はなによりも学問にあると考えますが、国内外での学会開催、出版事業は弛むことなく持続されてきました。半世紀にわたる学術の集積は、何にもまして誇りうるものです。

もっとも、常に順風満帆だったわけでなく、過去には研究会に数人しか集まらなかったこともあったと仄聞しております。学会を担った方々の継続への決意と努力が、およそ130名の会員を擁する現在の学会を導いています。

学問には時流があります。不易流行であることは学問が生きていること、学問が私たちの生と世界に根ざしていることの証しです。先人に敬意を払いつつも、新しい可能性を追究することは私たちの責務です。

幸いにして、近年は若い研究者の方々が、積極的に学会活動に参加しています。中国、韓国などのアジア圏のみならず、欧米からも本学会の活動にご協力いただいております。世界規模で、川端文学は日に新たに発見され、甦っていると言ってよいでしょう。

50年を超える学会活動を経ても、研究は終わりません。むしろ新たな視界が展開され、新しい発見がなされることで、川端文学は一層難解になったとも言えます。言葉によって表現されるものの深さは底知れぬものです。私たちはこれを察知することを通して、人の生を直覚できます。川端文学はそこへ私たちを導いてくれます。

こうした文学的経験は、研究とは無縁の方々にも等しく訪れます。私は学校で川端文学を教えますが、若い学生さんは私が解説をする前から、表現の深さを直観しています。そして、少しの解説の後にはまた新しい発見をし、喜びを感じてくれます。これは作品自体がもつ力のおかげです。私はほんの少し手を添えたに過ぎません。

文学という営みのすばらしさを、近頃あらためて実感しています。数多くの人々の心を深く震わすことのできる人間の営為は、決して多くはないでしょう。「美と存在の発見」に向けた私たちの努めは、これからも変わることはありません。

【川端康成学会(旧称 川端文学研究会)歴代会長】

初代会長  久松潜一

第2代会長 吉田精一

第3代会長 長谷川泉

第4代会長 羽鳥徹哉 第4代会長挨拶 小さな会の大きな志

第5代会長 林武志